2025年9月19日 為替市場ファンダメンタル分析
— Fed利下げ後の市場消化、欧州・英国の政策スタンス、日本政治の行方が交錯する一日
1.市場全体の概況
2025年9月19日の為替市場は、前日のFOMCによる米利下げの余波を引き継ぎながらも、ドルの急落が一服し「調整主体の相場展開」となりました。9月17日の0.25%利下げを受け、ドルは主要通貨に対して4年ぶり安値を一時試すなど売られすぎの局面を演じましたが、18日以降は利下げペースや今後のスタンスをめぐる思惑が交錯し、やや反発の動きも出ています。
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ドルインデックス(DXY):一時 96.20 付近まで下落後、97.00 を回復
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米10年債利回り:3.65% → 3.72% へ反発
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金価格:3,740ドルで高値更新後、3,710ドルへ小幅反落
市場は「ドル安一辺倒」から「方向感を探る段階」へと移行しているといえます。背景には、Fedの次の一手の不透明感、欧州・英国の中銀政策、日本の政治的リスクなどが絡み合っています。
2.米国のファンダメンタルズ
2-1.Fed利下げの意義と限界
9月17日に実施された利下げは「景気減速と労働市場の軟化を考慮したリスク管理的判断」と説明されました。インフレ率は前年比2.8%と目標2%に近づきつつある一方、失業率は4.5%まで上昇しており、景気減速シグナルが強まっています。
パウエル議長は「今後の利下げはデータ次第」と繰り返し、利下げサイクルの自動化を否定しました。市場では、10月・12月に追加利下げがあるとの見方が優勢ですが、Fedが急ピッチで動くかは微妙です。
→ これがドルの「急落後の反発」につながっています。
2-2.米経済指標の注目
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9月20日発表予定の9月PMI速報値が大きな焦点。製造業・サービス業ともに拡大基調を維持できるかが問われます。
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PMIが弱ければ「利下げ加速」思惑が再燃し、ドル売りが強まる可能性。逆に堅調ならば、ドルは底堅さを保ちやすい。
3.欧州・英国のファンダメンタルズ
3-1.ユーロ圏(ECB)
ECBは直近の会合で金利を据え置きましたが、ラガルド総裁は「インフレが完全に沈静化したわけではない」と強調しました。ユーロ圏CPIは3.1%と高止まりしており、ECBはFedほど早い利下げには動きにくい立場です。
→ このスタンスがユーロを支え、ユーロドルは1.19台を維持しています。
3-2.英国(BOE)
本日(19日)開催されたイングランド銀行(BOE)政策決定会合では、政策金利を5.25%で据え置き。ただし、国債売却ペース(QT)の減速を示唆しました。これは金融環境の過度な引き締めを避ける意図と受け止められています。
→ 市場はこれをポンドにポジティブと捉え、ポンドドルは1.37台を試す動き。
インフレ率が3.8%と依然高水準であるため、利下げは遠いとの見方が強く、相対的にドル安局面ではポンドに資金が流入しやすい地合いです。
4.日本のファンダメンタルズ
4-1.政治リスクと総裁選
日本では自民党総裁選を前に、為替政策をめぐる議論が活発化しています。米国からの「円安是正」圧力も続く中、候補者がどのようなスタンスを示すかが市場に影響。
一部候補は「円安による国民生活への悪影響」を強調しており、為替水準が選挙争点になりつつあります。
4-2.BOJのスタンス
前日報道された通り、10月末会合での利上げの可能性を複数の元BOJ幹部が言及。企業収益の改善と賃金上昇の持続を根拠に「マイナス金利完全解除」が視野に入っているとの観測が広がっています。
→ これを受けてドル円は148円手前で伸び悩み、円買い圧力が意識されました。
5.新興国通貨とコモディティ
5-1.アジア通貨
インドルピーは前日88.00を割り込む場面がありましたが、本日は88.20前後で落ち着きました。Fedの利下げは資金流入要因となる一方、パウエル発言が慎重だったため投機的なルピー買いは後退。
その他のアジア通貨(ウォン、リンギットなど)も同様に「ドル安の恩恵+調整」で方向感を欠いています。
5-2.ゴールド
金は史上最高値を更新した後、調整局面。Fed利下げに伴う実質金利低下が強力な支援要因ですが、短期的には利確売りも出やすい。3,700ドル台がサポートとして機能するか注目されます。
6.通貨ペア別の展望
通貨ペア | 現状 | 見通し |
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USD/JPY | 148円目前で伸び悩み。BOJ利上げ観測と総裁選リスクが円買いを誘発。 | 147~149円のレンジ推移。政治発言・介入観測次第で145円台も視野。 |
EUR/USD | 1.19台維持。ECBはタカ派色を残しており、ドル安局面で底堅い。 | 1.18~1.20のレンジ。1.20突破には追加材料必要。 |
GBP/USD | BOEがQT減速を示唆し、1.37台へ。 | 中期的に1.38台を試す可能性。インフレの持続が鍵。 |
AUD/USD | 0.70台での攻防。中国景気回復が限定的で豪ドルの重石に。 | 0.69~0.71レンジ。ドルの方向性に左右されやすい。 |
インドルピー(USD/INR) | 88.20前後で安定。 | 87.80~88.50の範囲内で調整。資金流入次第で87台へ。 |
7.今後の注目イベント
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9月20日 米PMI速報値:景気減速が鮮明になれば追加利下げ期待 → ドル売り。
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9月25日 日本CPI:BOJ利上げ観測を強めるか注目。
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10月 BOJ金融政策決定会合:利上げ実施なら円高方向へインパクト。
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10月 FOMC:追加利下げの是非を巡り市場が再び大きく動く可能性。
8.投資戦略
短期(数日)
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ドル円:147円台半ば~148円台で戻り売り戦略。総裁選関連のヘッドラインに注意。
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ユーロドル:1.1850を下値支持とした押し目買い。
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ポンドドル:1.37割れは買い場。BOEタカ派姿勢が後押し。
中期(数週間~数か月)
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Fedの利下げサイクル入りを前提に、非ドル資産比率を増やす。
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円は政策修正の可能性を見込み、ヘッジポジションを維持。
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ゴールドは押し目買いスタンス。
9.総括
2025年9月19日の為替市場は、Fed利下げ直後の「熱狂的ドル売り」から冷静な調整局面へと移り変わりました。ユーロやポンドはドル安を追い風に堅調ですが、日本円は政治要因・BOJ政策期待が複雑に絡み、ドル円相場の先行きを左右しています。
市場の視線は次なる米指標(PMI、雇用統計)、そして日欧の政策判断に向けられており、当面は「ドル安トレンドに反発を織り交ぜたレンジ相場」が続きそうです。中期的にはドル弱基調が続く公算が大きいため、非ドル資産の組み入れや円高リスクへの備えが重要な局面と言えるでしょう。
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