【10月5日|ファンダメンタル分析レポート】158円台で止まったドル円、米雇用減速後もドル高が続く理由

【10月5日|ファンダメンタル分析レポート】158円台で止まったドル円、米雇用減速後もドル高が続く理由

10月5日の為替市場は、前週末の米雇用統計で大きく売られたドルが週明けに買い戻される展開となりました。

10月2日に発表された米9月雇用統計では、非農業部門雇用者数が2万9000人増にとどまり、市場予想を大幅に下回りました。失業率も4.2%へ上昇し、平均時給の伸びも鈍化。発表直後には「FRBが追加利上げを急ぐ必要性は低下した」との見方から、ドル円は156円台後半まで下落しています。

ところが週明けの10月5日になると、ドル円は再び157円台後半へ戻り、東京時間には158円17銭まで上昇しました。

なぜ弱い雇用統計の後でもドルが売り込まれ続けなかったのでしょうか。

背景には、米長期金利の高止まり、フランスの財政不安によるユーロ売り、そして日本側の金融政策に対する慎重な見方があります。

10月5日は、単純な「米雇用悪化=ドル安」という構図だけでは説明できない相場でした。

1.ドル円は157円台後半で週明けをスタート

週明け5日のドル円は、先週末終値付近の157円80銭台から始まりました。

先週末の米雇用統計では一時ドル売りが強まりましたが、その後は買い戻しが入り、ドル円は157円台後半まで戻して週を終えていました。

5日午前10時時点では157円75~76銭。前週末比では18銭程度の円安・ドル高でした。市場では、前週末に米長期金利が上昇したことで日米金利差が再び意識され、ドル買いが優勢となっていました。(oanda.jp)

つまり、米雇用統計が弱かったことだけを材料にしてドル円が一方向へ下落する状況にはなっていませんでした。

これは今回の相場を考えるうえで重要です。

米国の労働市場に減速感が出ている一方、米国の金利水準そのものは依然として高く、ドルを売るには十分な材料が揃っていなかったからです。

さらに、ユーロが急落したことで相対的にドルが買われたことも、ドル円を支えました。

2.東京市場では158円17銭まで上昇

5日の東京市場でドル円は157円44銭付近から上昇し、一時158円17銭まで上値を伸ばしました。

15時時点では157円83銭。

この日の東京市場のレンジは157円44銭~158円17銭となり、158円台へ乗せる場面はあったものの、定着には至りませんでした。(traders.co.jp

注目されたのが158円台の売り圧力です。

前週までの値動きを見ると、ドル円は156円台まで下落した後、日銀の金融政策に対する慎重な見方や米長期金利の上昇を背景に158円台まで戻していました。

しかし158円台半ばには200日移動平均線が位置しており、テクニカル面でも上値抵抗が意識されています。

5日のニューヨーク市場でも、ドル円は一時158円30銭まで上昇したものの、200日移動平均線とされる158円51銭付近を前に伸び悩みました。(zai.diamond.jp

ファンダメンタルズだけでなく、チャート上でも158円台半ばが重要なポイントになっています。

3.フランス財政問題がユーロ売りを加速

10月5日の市場でドル高を支えた最大の要因の一つが、欧州から出てきたユーロ売りでした。

フランスの財政問題に対する懸念が強まり、フランス国債とドイツ国債の利回り差が拡大。欧州の財政に対する不安が強まったことでユーロが売られました。

ユーロドルは東京市場で1.1261ドルから一時1.1161ドルまで下落。

わずかな時間で約100ポイント下落する動きとなりました。(traders.co.jp

ロイターによると、ユーロは17カ月ぶりの安値圏まで下落し、フランスの財政赤字や政治的不透明感がユーロの重石となりました。フランス国債の売りが強まり、ドイツ国債との利回り差も拡大しています。(reuters.com

為替市場では「ドルが強くなった」というより、「ユーロが弱くなった結果、ドルが相対的に強く見える」という側面もありました。

この違いは非常に重要です。

米雇用統計が弱かったにもかかわらずドルが崩れなかった理由の一つは、ドルそのものへの買い需要に加えて、欧州側の不安からユーロ売り・ドル買いが発生したためです。

4.ドル円を支えた米長期金利

10月5日のもう一つのポイントは、米長期金利が高止まりしていたことです。

米10年債利回りは5.3%前後で推移しました。

これは米雇用統計後の「FRB追加利上げ観測後退」という材料だけを考えれば、やや説明しにくい水準です。

なぜ金利が下がりきらないのか。

ここで重要になるのがインフレです。

5日に発表された米9月ISM非製造業景況指数は54.9となり、8月の55.4から低下しました。市場予想の55.0もわずかに下回っています。

景気指数だけを見れば、ドル買い材料としては弱い内容でした。

ところが、仕入れ価格指数は74.0まで上昇し、2022年7月以来の高水準となりました。(reuters.com

ここが今回のISMの重要な部分です。

「景気は少し減速している」

しかし、

「企業が支払う価格は上昇している」

という組み合わせになっています。

FRBにとっては非常に判断が難しい状況です。

雇用が弱ければ利下げを考えたくなる一方、物価圧力が残っていれば金融緩和を急ぐことはできません。

このため、米雇用統計が弱かったにもかかわらず、米10年債利回りが5.3%近辺で推移し、ドル円も158円台を維持しました。

5.ISM非製造業指数は「弱いがインフレ圧力は強い」

日本時間23時に発表された米9月ISM非製造業景況指数は54.9。

市場予想55.0、前月55.4から低下しました。(minkabu.jp

50を上回っているため、サービス業全体としては依然として拡大しています。

また、新規受注指数は59.8となり、8月の60.9から低下したものの、高い水準を維持しています。

雇用指数は50.1まで上昇し、前月の47.8から改善しました。

つまり、9月雇用統計だけを見て「米労働市場が急速に悪化している」と判断するのは難しくなっています。

サービス業では雇用が改善しているためです。

一方、仕入れ価格指数は74.0まで上昇しました。

ロイターによると、強い国内需要によってサプライチェーンへの負荷が続いており、中東情勢によるエネルギー価格や物流面の問題も物価上昇圧力につながっています。(reuters.com

このため、今回のISMは「利下げ期待を強めるほど弱い指標」とも言い切れません。

むしろ、

景気はやや減速
↓
雇用は底堅い
↓
物価圧力は強い

という、FRBにとって難しい状態を示しています。

6.ISM発表後、ドル円は158円30銭から158円12銭へ

ISM発表直後のドル円は、158円30銭付近から158円12銭まで反落しました。

市場予想を下回ったことでドル買いが一服した格好です。

ただし、下落幅は限定的でした。

米10年債利回りが5.3%前後で推移していたこともあり、ドルを積極的に売り込むには至っていません。(kabutan.jp

これは今後のドル円を見るうえでも重要な反応です。

もし米10年債利回りが5%を大きく割り込み、ISMの弱さと雇用統計の弱さが同時に意識されるなら、ドル円は156円台へ再び下落する可能性があります。

反対に米10年債利回りが5.3%台を維持し、インフレ指標も強い状態が続くなら、158円台から160円方向を再び試す可能性も残ります。

現時点では、米金利がドル円の方向を決める重要な変数です。

7.日本では内田日銀副総裁の発言に注目

日本側では、日銀の内田真一副総裁がAIと金融政策について発言しました。

内田副総裁は、AIについて需要面の影響が先行しており、金融環境を「より緩和する方向に作用しているように見える」との見方を示しました。

AI関連の需要拡大は経済や物価を押し上げる一方、AI関連企業による大規模な債券発行は長期金利を押し上げ、金融環境を引き締める方向にも作用していると説明しています。(boj.or.jp

この発言は、一見すると円相場と直接関係がないように見えます。

しかし日銀がAI投資を単なる株式市場のテーマではなく、需要、物価、自然利子率、長期金利など金融政策の重要な変数として見ている点は見逃せません。

AI関連投資が日本経済の需要を押し上げ、物価上昇圧力を長期化させるのであれば、日銀が金融政策を正常化する理由の一つになります。

9月に政策金利を1.25%へ引き上げた日銀が、次の利上げを完全に否定していないことを考えると、円売り一辺倒になりにくい環境は続いています。

8.高市首相の発言も円相場を動かした

東京市場では、高市首相の所信表明演説も材料となりました。

高市首相は、責任ある積極財政によってGDPを拡大し、経済成長と好循環を実現する姿勢を示す一方、市場が想定と異なる動きを示した場合には必要な措置を機動的に講じると述べました。

この発言を受け、ドル円は一時158円17銭まで上昇した後、157円80銭台へ押し戻されました。(traders.co.jp

現在の為替市場では、財政政策も円相場にとって重要な材料です。

積極財政が景気を押し上げれば、日本の成長期待にはプラスです。

一方、国債発行の増加が長期金利を押し上げる場合、日本国債の需給や財政への懸念が強まり、円売りにつながる可能性もあります。

つまり、積極財政そのものが必ず円高・円安のどちらにつながるわけではありません。

財政政策と金融政策の組み合わせを市場がどう評価するかがポイントです。

9.ドル円は158円台後半が最初の壁

現在のドル円をテクニカルとファンダメンタルズの両面から見ると、158円台半ばが重要な分岐点です。

10月5日のニューヨーク市場では158円30銭まで上昇したものの、200日移動平均線とされる158円51銭付近を前に上値が重くなりました。(zai.diamond.jp

したがって、

158円50銭前後

は短期的な上値抵抗として意識されます。

ここを明確に突破すれば、159円、さらに160円が次のターゲットになります。

ただし160円に近づけば、日本政府・日銀による為替介入への警戒感が強くなります。

反対に158円台半ばで抑えられ、157円を割り込む展開になれば、156円台後半から156円付近が次の下値候補になります。

OANDAのオーダーブックでも、156円台後半と156円付近には買い注文が厚く、158円台半ばと160円付近には売り注文が厚い状態が確認されています。(oanda.jp

現在のドル円は、156~160円という広いレンジの中で、中央付近を行き来している段階と考えることができます。

10.ユーロ円はフランス問題で大幅下落

10月5日に最も大きく動いた主要クロス円の一つがユーロ円です。

ユーロ円は東京時間に178円03銭付近から下落し、一時176円41銭まで下落。

15時時点では176円65銭でした。(traders.co.jp

17時時点でも176円59銭前後となり、前週末比で約1円のユーロ安・円高です。(oanda.jp

背景にはフランスの財政問題があります。

欧州ではフランス国債の利回り上昇が続き、政治・財政への不安がユーロ売りにつながりました。

ただし欧州時間に入るとユーロ売りがやや一服し、ユーロドルは1.12ドル台を回復する場面もありました。ユーロ円も177円台へ戻しています。(investing.com

今後のユーロ円では、フランス国債利回りと政治情勢が重要な材料になります。

11.主要クロス円は円高方向が優勢

10月5日20時35分時点の三井住友銀行の参考レートでは、以下の水準が確認されています。

  • ドル円:157円72~158円22銭
  • ユーロ円:176円61~177円31銭
  • ポンド円:207円19~209円19銭
  • スイスフラン円:189円86~190円31銭
  • 豪ドル円:108円90~110円15銭
  • NZドル円:87円20~88円47銭

いずれも店頭取引向けの参考レートですが、主要クロス円のおおよその水準を把握する材料になります。(smbc.co.jp

特にユーロ円はフランス財政問題の影響を強く受けました。

一方、豪ドル円やNZドル円はドル円の動きに加えて、資源価格や中国経済の影響も受けます。

中国市場は国慶節で休場しており、8日に取引が再開される予定です。そのため今週前半は中国市場からの直接的な価格形成が弱く、豪ドルやNZドルでは他市場の動きが相対的に大きく反映されやすい状況です。(gaitame.com

12.10月相場の焦点は「雇用」から「インフレ」へ

ここまでの流れを整理すると、10月5日の相場では非常に興味深い変化が起きています。

10月2日までは、

米雇用悪化
↓
FRB追加利上げ観測後退
↓
米金利低下
↓
ドル円下落

という流れでした。

ところが10月5日になると、

米サービス業は拡大継続
↓
仕入れ価格上昇
↓
インフレ圧力が残る
↓
FRBが簡単には金融緩和へ転じられない
↓
米金利高止まり
↓
ドル円下落が限定的

という別の流れが加わりました。

つまり、米雇用統計だけでは相場の方向を決められなくなっています。

今後は雇用とインフレの両方を見る必要があります。

特に仕入れ価格74.0というISMの数字は、今後のインフレを考えるうえで無視できません。

雇用が弱いのに物価が高い。

これはFRBにとって最も難しい組み合わせの一つです。

13.今週はFOMC議事要旨と日銀総裁発言へ

10月5日週の為替市場では、6日に植田日銀総裁の発言が予定され、7日には9月15~16日に開催されたFOMCの議事要旨が公表されます。(oanda.jp

特にFOMC議事要旨では、9月の利上げ局面で参加者が今後の追加利上げについてどのような議論をしていたのかが注目されます。

9月の雇用統計が弱かったため、議事要旨そのものは雇用統計発表前のものになります。

それでも、FRB内部でインフレと雇用のどちらを重視していたのかを確認する材料になります。

一方、植田総裁の発言では、9月の利上げ後に日銀がどの程度の追加利上げを想定しているのかが焦点です。

ドル円が158~160円へ上昇する場合、日銀がどのような認識を示すかによって相場の上値が変わる可能性があります。

まとめ

10月5日の為替市場は、前週末の米雇用統計で発生したドル売りが一巡し、ドル円が157円台後半へ戻る一方、158円台半ばでは上値が抑えられる展開となりました。

東京市場ではドル円が157円44銭から158円17銭まで上昇しましたが、その後は157円台へ押し戻されています。(traders.co.jp

最大の特徴は、米雇用統計の弱さだけではドル安が続かなかったことです。

米10年債利回りが5.3%前後で高止まりしたほか、フランス財政問題を背景にユーロが急落し、相対的にドルが買われました。

さらに夜には米9月ISM非製造業景況指数が54.9と予想を下回ったものの、仕入れ価格指数は74.0まで上昇。

景気の減速感とインフレ圧力が同居する結果となり、FRBの金融政策を単純に「利下げ方向」と判断するには難しい内容でした。(reuters.com

ドル円はISM発表後に158円30銭付近から158円12銭へ反落しましたが、下落幅は限定的です。(zai.diamond.jp

一方、日本では東京CPIの上昇や日銀の金融正常化方針が円を支える要素として残っています。

したがって、今のドル円は「米雇用悪化だから円高」と単純化するより、

「米雇用は弱い」
「米インフレ圧力は残る」
「米長期金利は高い」
「日銀は追加利上げの余地を残している」
「158円台後半から160円には介入警戒がある」

という複数の材料がぶつかっている相場と見るべきでしょう。

短期的には157円が重要な下値ライン、158円50銭前後が上値の分岐点です。

158円50銭を明確に突破できれば159円、さらに160円が視野に入りますが、そこで円安けん制や介入警戒が強まる可能性があります。

逆に157円を割り込み、米10年債利回りも低下するなら、156円台後半から156円付近までの円高が意識されます。

10月相場はまだ方向性が固まっていません。

米国では雇用の弱さとインフレの強さ、日本では物価上昇と金融政策正常化、欧州では財政問題が同時進行しています。

そのため今後の為替市場では、一つの経済指標だけで判断するのではなく、「金利」「物価」「雇用」「財政」の4つを組み合わせて見ることが、相場の方向を見極めるうえでより重要になりそうです。

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